山小屋の2階の部屋で19時には寝た。最繁期なので詰め込まれ、カイコ棚ベットで、イワシ缶詰のように頭足を交互にして横になった。
寝返りが難しい状態だった。
N先輩の奥様と枕を並べて寝たが、その間には身長185センチ超のN先輩の大きな足があり、彼の無理な寝返りで何度か鼻先や顔に足を押し付けられた。足が臭かった記憶はない。奥様がしっかりしているのだろう。私は、そんなことやら、室内が蒸し暑くて寝られなかったので、出発前の4時間は涼しい風が入る一階へ移動し、ビールを飲んだりしてボンヤリ過ごした。
N氏に関しては、私が30、31歳のペーペーで、N氏が隣の課の課長だったころ、初めてまともな話をしたときのことを覚えている。そのときは、部署の編成で同じ部になって、しばらくしたころの土曜日の部当番時だった。N課長が部の責任者、私が部担当のお客さまで起きたトラブル対応の兵隊数人のうちの一人だった。前日に胃の検査で初めてバリウムを飲んでいた私は、トイレの時間が長くなり5、6分遅刻した。早速、お呼びがかかり、N氏の机前にある椅子へ座らされ遅刻の理由を問われた。「M君(私)、遅刻した理由はなんだね。今日は土曜日だからチョット遅刻してもよいと思っていたのかね」。私は、ヒマな土曜日だから、少しぐらいの遅刻はいいやと思っていたのは事実で、ズバリの指摘だったのであせったが「昨日、胃の検査でバリウムを飲んだら、朝になってもお腹のなかに溜まっているようでトイレから出れず、あと少し、あと少しと思っていたら遅刻してしまいました」と答えた。「バリウムは初めてか?」。「ハイ」。N氏は表情は変えないがニヤリとした口調で「次回も遅刻したら許さんぞ。ウン(同時にアゴを動かし、椅子から退けという仕草をした)」。そして、私は簡単に開放されたのが意外でホッとした。
それまでN氏が部下を叱り反省を強いる姿を何度も見ているが、長時間にわたることが多く、何人もの彼の部下から「N課長は怖いよ、すごく怖い。頭が良いし、言うことは正論なので敵う人なんかいないよ」と恐れられていたのを聞いていたのだ。
午前2時に登山開始。
夜空が素晴らしかった。天の川は、名前通り川のように多くの星が光っていた。
山頂の御来光